フェノバルビタール (2010/01/23追加)

  •   フェノバルビタールの解説

 

1.   血中モニタリングの意義

  血液中の定状状態での薬物濃度を、至適血中濃度(10~30㎍/ml)*1になるように投与量・投与方法を変更し最適な投与計画をはかる。         

文献により値が多少異なる場合があります。あるいは10~35㎍/ml(*2) 15~40㎍/ml(*3)という文献もあるが、これ以下の濃度で有効な臨床例もかなり多い  (4.【      血中濃度と薬効 】参照)

*1  ウィンターの臨床薬物動態学の基礎 監訳 樋口駿 じほう

*2 薬剤師・薬学生のための実践TDMマニュアル 編集:伊賀立二、乾 賢一 株式会社じほう 

*3 TDMポケットガイド  編集:宮崎勝巳 ほか  薬局新聞社 

  

2.   中毒発現濃度と症状    

 40㎍/ml以上   眠気、運動失調、過度の鎮静

 60㎍/ml以上   昏睡、呼吸抑制、血圧低下、体温下降

100㎍/ml以上   反射消失

150㎍/ml以上   呼吸麻痺、致死(体温管理などにより生存可能な場合もある)

  ( 薬剤師・薬学生のための実践TDMマニュアル 編集:伊賀立二、乾 賢一 株式会社じほう より引用 )

 

3.    投与量の調節 

血中濃度 投与量の調節
10㎍/ml以下 3mg/Kg増量可能。 てんかん発作が出現する場合増量(長期発作抑制なら調節必要なし)
10~35㎍/ml 調節必要なし。てんかんが出現する場合増量
35 ㎍/ml以上 1mg/Kg以上減量。 副作用の有無に関らず減量
   

  ( 薬剤師・薬学生のための実践TDMマニュアル 編集:伊賀立二、乾 賢一 株式会社じほう  より引用)

4.      フェノバルビタールの血中濃度と薬効 

  抗てんかん薬の治療濃度範囲の値はそれぞれの抗てんかん薬を単独で服用した時、

70~80%の患者で発作が抑制されるときの濃度範囲であり、すべての患者で発作が完全に抑制されるわけではない。

 すなわち、難治性の患者では、より高濃度にする必要があったり他の抗てんかん薬の併用を必要としたりする場合もある。

 また、長期にわたって、てんかん発作が抑制されている場合は、治療濃度範囲の下限以下の濃度であっても効果が得られていることが多い。

  抗てんかん薬は、連用中に急に投与を中止すると離脱症状が現れ大発作を引き起こすことがあるので徐々に減量する必要がある。

( 薬剤師・薬学生のための実践TDMマニュアル 編集:伊賀立二、乾 賢一 株式会社じほう  より引用)

5.  フェノバルビタールの薬物解析

  Easy TDMは有効血中濃度である10~30μg/mLに黄色を塗っていますが、グラフスケール ボタンでユーザーが自由に幅を変える事が出来ます。

graph2
graph1

 

 6. 採血時間は、トラフ(グラフの谷値とも呼ばれる。投与直前値が最も低い谷値になる)時間で採血することが望ましい(いつ採血するか?)

採血時間は、TDM解析で注意する必要が在ります。フェノバルビタールはトラフ値(投与直前値)を採血される事をお勧めします。

原則的にはなるべく、定常状態(半減期の3~4倍以上の時間)になってからの服用直前で採血してください。

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その理由は、

 1日の血中濃度の幅があるためピーク値に達する時間を予測することが困難なため。

 また、どの薬剤(内服薬の場合)でも、吸収における個人差は大きいので、吸収に影響のないトラフ濃度を測ることが多いため。

血漿タンパクによる血中濃度上昇評価が難しいため。

しかし、  施設の測定環境や受付時間、患者様の状態によって測定可能な時間帯などさまざまな環境があると思います。

したがって、投与直前に採血できない場合もありますが、出来るだけ服用前に近い時点で採血してください・・・m(_ _ )m

(重要)そんな場合でも、採血時間(何時何分に採血した)だけは、必ず記録しておいてください。(重要)

また、採血後は速やかに測定を行ってください。測定まで時間がかかる場合には冷所に保管し、当日測定できない場合には凍結保存とします。

ほとんどの薬物は血清あるいは血漿濃度を用いて測定しますが、シクロスポリンは赤血球への薬物分布が多いため全血を用います。

診療報酬との兼ね合いで月一度程度しか測定できないのが実情でしょうが、EasyTDMでは、採血点が多いほど患者個人の解析精度が高くなります。

(  ウィンターの臨床薬物動態学の基礎;じほう 、月間薬事 Vol.45 No.9 2003.8 98(1672)、日本TDM学会ホームページ「採血の留意点」 より引用)

7. 投与スケジュールの入力

 sukejuuru nyuuryoku

入力方法はどの薬剤も全て同じで、投与期間と服用時間・投与量をEasyTDMに入力してください。

 

 

 

8. 薬物動態の特徴についての知識

【フェノバルビタールの特徴】

半減期は成人で5日のため、定状状態に達する(半減期間の4~5倍)期間は20日から25日かかるため効果発現にある程度の日を要する。

血症中濃度が100㎍/mlを超えると中枢抑制による呼吸麻痺により死亡するといわれているので注意が必要である。

【フェノバルビタールの吸収】

バイオアベイラビリティー(生体内利用率: F)  90%以上生体内利用率が高い)

バイオアベイラビリティーとは・・・活性成分(薬物または代謝産物)が体循環に入り、これによって作用部位に到達する。その量。

フェノバルビタールの研究については、おそらく90%以上。

フェノバルビタールはナトリウム塩として投与されるが、この塩は91%のフェノバルビタールを含む(S=0.91)。しかし、塩に対する補正は誤差が小さいことや、治療域が広いことから行っていない。

【フェノバルビタールの 分布容積(Vd) 】

0.6~0.7  L/Kg

【フェノバルビタールのクリアランス(CL) 】

血漿中総クリアランス平均値はおよそ0.004(L/hr/kg)である。

肝機能障害・・・代謝能力が落ちることによるクリアランスの低下が認められているため、血中濃度が高くなる。

腎障害患者・・・消失半減期が長くなる。

【フェノバルビタールの相互作用 】

相互作用・・・フェニトイン・バルプロ酸などの代謝酵素阻害に影響する薬剤との併用で代謝が阻害され血清中フェノバルビタール濃度が上昇する。

 

参考 

1) ウィンターの臨床薬物動態学の基礎;じほう

2) 伊賀立二ほか:薬物投与設計のためのTDMの実際薬業時報社